フリーターやニート対策として、フリーターやニートの若者に手に職をつけるとともに理論を同時に学ばせる日本版デュアルシステムがあります。デュアルシステムとは、ドイツにおける職業訓練制度で、企業に見習生としてとして所属し、全労働時間の7割を企業でマイスター、教育訓練指導者および先輩より実地を教わり、3割を効率の職業学校で理論を学ぶ制度で、これを日本の労働市場に合わせて厚生労働省と文部科学省が連携して行うのが日本版デュアルシステムです。
企業にとってのメリットとしては、
(1)良質な人材の確保の機会が増えます。
(2)正規雇用が難しいような場合も、こうした訓練システムを通じて
能力・適性を見極めた上で正規雇用が可能となります。
(3)教育訓練部分の訓練を外部の教育訓練機関で実施による訓練負
担の軽減できます。
(4)自社に新規雇用者の教育プログラムがない場合やあっても
あまり機能していない場合には、専門学校などの教育訓練
機関による体系的な知識・技能・技術を習得が可能となります。
(5)修了時の能力評価により、能力が保証された人材を採用が可能
となります。また、実際に訓練生を雇用した企業では、
(6)新規プロジェクトを立ち上げたい際、意欲のある若い訓練生に
任せることによって斬新なアイディアでプロジェクトが推進で
きる可能性があるとともに、現在推進中のプロジェクト内容が
外部に漏れることがない
などもあります。
若年者にとってのメリットとしては、
(1)企業実習を大幅に取り入れた実践的な訓練が受講可能となり
就職に有利となります。
(2)直ちに正規雇用に就けない場合でも、有期パート雇用の下、
賃金をもらいながら、訓練を受講することが可能となります。
(3)修了時の能力評価により、採用にあたって、企業から適正な
評価を得ることができます。
課題としては、訓練分野が、“見習い工員→工員→指導工員→部門責任者→職長→工場長”の様に公的資格や評価制度の確立したもの、座学だけでなく実務経験が重要な分野等を中心となっており、評価基準が確定されていない職種はこの日本版デュアルシステムでは対応できません。また、企業側が日本版デュアルシステムで学んだ訓練生の技量や技術を職歴として認定するという保証もありません。また、企業で受け入れた場合のコスト負担を誰が行うのかという課題もあります。
とはいえ、この制度の導入によって、従来の「公的資格等、評価制度の確立」した分野以外の職種においても能力・技能・技量の数値化への努力がなされる可能性が高まります。数値化によってよって各人の努力と職業訓練目標が明確になり、また、訓練方法が確立されます。数値化によって次の新たな課題が発見できます。さらに、成熟化社会において産業の隆盛が激しくなることが予想され、能力・技能・技量の数値化が可能となれば各人の能力・技能・技量が測定され、また、産業構造の変化による新しい産業や職種に必要な能力・技能・技量がどの程度なのかがわかるため産業間や職業間での移動が容易になる等のメリットも考えられます。
日本版デュアルシステムについては厚生労働省のホームページをご参考下さい。
<追記>
先々週のコラムでは知識の測定について述べましたが、日本経団連がまとめた「企業の求める人材像についてアンケート結果」が入手できましたので付け加えさせて頂きます。それによると今後経団連が考える必要とされる人材の能力は、
(1)志と心:社会の一員としての規範を備え、物事に使命感をもっ
て取り組むことのできる力
(2)行動力:情報収集や、交渉、調整などを通じて困難を克服しな
がら目標を達成する力
(3)知 力:深く物事を探求し考え抜く力
を持つ人材を要求しており、かつての様な知識一辺倒や体育会系を望む声は希薄になっていることが分かります。
(1)の「志と心」の評価基準としては、次の3項目です。
(a)社会人として将来何をやりたいか夢や目標を持っている。
(b)礼儀正しく、はきはきしている。
(c)新しいものに興味をもち積極的に理解しとりいれようとする
ことができる
こととなっており、具体的には次の6項目から構成されています。
(a)人間性・倫理観
(b)社会性
(c)職業観
(d)責任感
(e)仕事に対する意識の高さ
(f)国際協調の意識
(2)の「行動力」の評価基準としては、次の3項目です。
(a)相手の意見や質問を踏まえて上で、自分の意見を分かりやすく
述べることができる
(b)自ら立てた目標に向けて粘り強く努力した経験を持つ
(c)異なる文化や考え方を持つ人とも一緒にひとつの仕事に取り
組める
こととなっており、具体的には次の7項目から構成されています。
(a)実行力
(b)コミュニケーション能力
(c)情報収集力
(d)プレゼンテーション能力
(e)シミュレーション能力
(f)ネットワーク力
(g)異文化理解能力
(3)の「知力」の評価基準としては、次の3項で、
(a)論理的思考力が高い
(b)一般常識や専門課程で学んだ知識、語学力が身に付いている
(c)自らの経験や考え方に基づく独創的な発想をする
となっています。具体的には次の5項目です。
(a)基礎学力
(b)論理的な思考力
(c)戦略的な思考力
(d)専門性
(e)独創性
資料:日本経団連教育問題委員会「企業の求める人材像についてのアンケート結果」
(2004年11月8日) pp.2-3より。