2005年08月26日

第54回-「六諭衍義」の現代的解釈-

今週も先週に引き続き、「六諭衍義」が日本の繁栄にもたらした影響について考えてみましょう。

今回もなぜ、「六諭衍義」を取り上げる理由を説明しますと、第一は、沖縄ベンチャースタジオの面々による福州の琉球人墓墓参とのコラボ(詳細は、島田勝也さんのブログFLOSSAさんのブログをご参照下さい)。

第二は、制度経済学からの視点です。地域経済が経済理論の示す様な経済成長パターンを描かない理由として、ある規制が決定されると企業や個人はその規制に適応してしまうという「経済の経路依存性」、宗教、文化やモラールを含めた制度と経済成果の相互作用への不完全な理解、インフォーマルな制度という3つの原因があると制度経済学では説明されています。

つまり、制度経済学によって明治維新以降からの日本の経済発展を解釈すると、江戸時代から明治にかけて日本経済は、経路依存性がなく、制度と経済成果の相互作用が理解され、インフォーマルな制度がなかったということになります。

私は、上記の中でも特に、職業観や倫理観などのモラールが果たした役割を、そして、モラールの基盤となった庶民教育における「六諭衍義」の意義を特に強調したいと思います。

さて、「六諭衍義」は孝順父母、尊敬長上、和睦郷里、教訓子孫、各安生理、毋作非為から成り立ちますが、その各々についての意味を、名護市教育委員会・六諭衍義編集会議編「六諭のこころ―市民のための六諭衍義―」(2003年10月)から引用させて頂き、私見を述べたいと思います。

「孝順父母(ふぼこうじゅんなれ)」とは「いたわりあう親子関係を築くこころ」。

「尊敬長上(ちょうじょうをそんけいせよ)」とは「互いの良さを尊敬しあうこころ」。

「和睦郷里(きょうりはわぼくせよ)」とは「ふるさとの自然や人を愛しなかよく助け合うこころ」。

「教訓子孫(しそんをきょういくせよ)」とは「教育を大切にするこころ」。

「各安生理(おのおのせいりにやすんぜよ)」とは「自分のやるべきことを成し遂げるこころ」。

「毋作非為(ひいをなすなかれ)」とは「善いおこないをするこころ」

という意味です。

さて、「六諭衍義」を現代風に解釈してみましょう。

先ず「孝順父母」とは家族法と解釈できるでしょう。「尊敬長上」はお互いの長所を認め合い、短所を補い合ってシナジー効果を高める組織論と見なすことができます。

「和睦郷里」は地域資源を認識し、地域社会貢献を勧める地域経営学へと焼き直せます。「教訓子孫」とは、文字通り教育学や教育による社会の安定を意味しています。

「各安生理」とは、一人一人が責任を果たすという民法の基本原理を述べています。「毋作非為」とは、責任を果たすばかりでなく、公共の福祉が高まるように知識や能力を発揮するよう説いています。

このように解釈すると、現代の私たちが、私有財産性、合理性と基本的人権の尊重を基本とする現代社会生活を営む上での社会規範がすでに「六諭衍義」の中に盛り込まれていることになります。

ということは、1719年に島津吉貴公より第8代将軍徳川吉宗に献上され、その後、日本中に人々の共通の社会的規範として「六諭衍義」が培われていたならば、鎖国と開国という外交制度の違いはありますが、明治維新以降の日本の経済発展は、驚くべき事柄ではないことが分かります。

このように解釈しますと、沖縄の偉人、程順則=名護親方の我が国に与えた業績がいかに偉大であったか、と同時に、再評価する必要があると思いますが、読者の皆さんはどのような感想をもたれたでしょうか。


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Posted by 宮平栄治 at 09:05│Comments(4)沖縄経済学
この記事へのコメント

宮平さん、こんばんは。

「六諭衍義」の解釈になるほどなるほど・・と頷き感銘致しました。

福州に旅した時にも実感しましたが、沖縄の先人達の偉大さは

もっと評価されて良いのではと改めて思いました。

私も勉強不足なので宮平さんのブログで勉強させて頂きます。

謝謝!

   flossaでした。





Posted by flossa at 2005年08月27日 00:36
我が沖縄は、先の大戦を経て、あまりの大きなショック・ダメージを受けてしまい、ある種の記憶喪失状態になっているよね。廃藩置県以前の記憶があまりにも薄くなってしまった。
Posted by 島田勝也 at 2005年08月27日 02:40
flossaさん コメント頂きありがとうございました。最近、ベンチャービジネスを学んでいると感じるのは、flossaさんのコメントにもございますように「沖縄の先人達の偉大さ」です。

沖縄は、面積も狭く、貴金属も産出しませんが音楽、芸能、織物、漆器、螺鈿細工など"琉球文化"を確立しています。ほとんど何も無いところから、数々の価値あるものを創りあげていたという意味では、昔からベンチャービジネスを私たちの先人達は行っていたといえるのではないでしょうか。

島田さんがコメントされているように、”記憶喪失状態”になっているようです。

ただ、若い人たちの(私も若いつもりですが、私よりも若いという意味で)、音楽、芸能での活躍が相次いでいます。

また、最近では宮里藍さんや諸見里しのぶさんに代表されるゴルフ、朝貢貿易の際は、音楽と舞踊で接待していました。ゴルフも接待に利用されますネ。接待という目的では、組踊りや琉球舞踊とゴルフが共通しますので、沖縄の若い人たちが活躍していることは、ちっとも不思議ではないし、当然なのかも知れません。

そういう意味では、徐々に私たちの先人達がなしえた事柄を若い人たちもちゃんと継承したり、現代にアレンジしたりしているのではないでしょうか。

flossaさん、島田さん。お互いに意見を交換しながら、また、先人達の再評価を行いつつ、私たちの存在意義を考えつつ、若い人たちの活躍を後押ししたいと考えていますので、忌憚の無いコメントを今後ともお願い致します。
Posted by 宮平栄治 at 2005年08月30日 17:57
宮平先生

先生の投稿から7年経ってますが、非常に新鮮な気持ちで拝見しました。
Posted by 今井 at 2012年08月09日 20:49
 
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