2004年10月29日

第13回:米・加式“まちづくり”の一手法、

BIAとベンチャー・ビジネス

 先週、10月23日(土曜日)は、福岡大学で開催されました、日本経済政策学会西日本部会の秋季例会へ出席し、経済政策の最新情報を学んできました。今回のコラムはその一部をご報告致します。

 今回の例会で、私が特に印象深かったのが、福岡大学の宮本昌典先生による、「カナダ・ブリッティシュ・コロンビア州のBusiness Improvement Are(BIA)制度」というアメリカでは1960年代、カナダでは1970年代から行われている中心市街地再生プログラムです。

 地域のあり方を述べる際、経済学ではわざわざ「まちづくり」と平仮名で表現します。その理由は、私たちが暮らす地域づくりには様々な視点から行われます。例えば、(1)都市計画、(2)都市工学、(3)アーバン・デザインおよび(4)地域経済学からの見方です。

 都市計画では、居住空間を自然環境や人々の安らぎ、安全等が確保できるように道路、公園の配置、住宅の色やデザインの制限などを対象にします。都市工学では、交通アクセス等が加味されます。アーバン・デザインでは、建物のデザインや道路と建物の配置といった都市設計に重点が置かれます。社会科学、特に、地域経済学の視点から持続的発展が可能な地域において、人々の意思決定を課題にする場合には、「まちづくり」となり、他の分野と相違を明確にし、強調するため、敢えて、平仮名で表記されます。

 「まちづくり」は、さらに、歴史・文化・まちなみや里山・里地・里海を含む自然環境から形成される地域資源ストックの生かし方、中心市街地問題、スラム化、スプロール化、風致・緑地・景観対策、都市の犯罪、バリアフリーや商店街再生が細分化されたテーマとなります。

 さて、BIA制度ですが、この制度は荒廃した中心市街地を再生するための資金集めを行なうために、地主、ビルの所有者およびビルのテナント・オーナーで組織される団体が、BIA構想を市町村役場に提出し、審査後、認可された地域の住民が、基本計画や監査の方法を議会へ提出し、その地区に限ってビルの所有者に対して面積に応じた定額税を民間団体であるBIAの授業団体が徴収し、市街地再生の資金をまかなうというシステムです。

 日本の場合ですと、補助金や減税・免税という手段で中心市街地再生が行われるのが主流ですが、アメリカやカナダでは、住民自らが課税を自発的に申請し、公権力の代わりに、税徴収の執行を行うという手法に、先ず、驚きました。

 BIAが形成された背景には、中心市街地の荒廃もありますが、中心市街地開発には利害が絡むのがつきもので、全員一致はほとんどありえません。だからこそ、BIAを組織する必要があるのです。

 再開発にはどうしても利害関係者と行政あるいは開発業者との交渉が必要になります。しかしその交渉も個別交渉ですと、地主さん、ビルのオーナーさん、テナントのオーナーさんとそれぞれ個別交渉でおこなうことになり、膨大な労力、時間、費用が必要になります。ところが、団体交渉ですと、団体の長と直接交渉すれば上述のコストは削減できるわけです。

 三位一体の改革以降、地域は、自らの地域に必要な公的サービス・財を調達する資金を自らで賄い、負担するという自立と、自らの地域のあり方を意思決定するという自律、この二つの「ジリツ」がこれまで以上に求められています。そういう意味では、BIAは、他者からの財政移転を伴わないため自立しており、また、自らの地区のあり方を地区住民団体で決定するという意味でも自律した運営方法です。また、自ら課税という痛みで、自らの地区の再生という恩恵が得られという観点では、日本で問題となる税金の無駄遣いを防げますし、恩恵は得ているがその便益に対して税金を支払わないというフリーライダーも排除できます。

 このような受益者負担および納税者のコスト意識がさらに高まれば、「このような公的サービスはこの地区では不要だから、その代わり税金をやすくしてくれ」、あるいは、「このような公的サービスは住民でも可能だから、その代わり税金をやすくしてくれ」という住民自治本来の姿も期待できます。

 アメリカやカナダという地方分権制度と国・州・郡・市町村の役割分担が明確な国家と日本とを単純比較することはできませんが、福岡市でもBIAの手法導入が検討されているようです。また、日本で導入された場合、官の分野を民間が運営することになり、そうなると、ますますベンチャー・ビジネスの活躍の場が拡大しそうです。

 追記 前回のコラムで、「沖縄・観光文化検定試験」を提案致しました。その後、日本トランスオーシャン航空株式会社(JTA)広報担当の小堀健さんから、沖縄では、「沖縄旅行地理検定」という名称で、近々第1回目が開催される予定というご連絡を頂きましたので、読者の皆様へお知らせ致します、と同時に、小堀さんへこの場をお借り致し、御礼申し上げます。
2004/10/29


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Posted by 宮平栄治 at 00:00│Comments(0)沖縄経済学
 
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