2005年10月05日
第74回「応用重視の教育は実践力へとつながるか」
後期も始まり、日焼けした学生たちがキャンパスに戻ってきました。今期も毎週一回のアチーブメント・テストで学生をビシビシとしごいてやろうと、指の間接をポキポキ鳴らしながら教室へ向かう毎日です。
さて、今からちょうど2年前、アメリカ国務省のInternational Visitor Program(現在はInternational Visitor Leadership Programと名称が変わりました)で4週間、9州の18のコミュニティ・カレッジ(日本の短期大学や職業訓練校に相当)からMITやハーバード大などの教育・研究基金システムを見学する機会を得ました。
日本では、応用を重視した大学教育が実践力となるという考えからか、教養基礎科目への関心が希薄なように感じられます。たとえば、かつては存在した教養部がすっかりなくなってしまいました。今日は、アメリカの大学教育の実情について述べ、ニューヨーク州立大学クーインズ・カレッジとモンタナ州立大学での大学教員へのインタビューから、日本の大学教育の課題について考えることにいたします。
さて、今からちょうど2年前、アメリカ国務省のInternational Visitor Program(現在はInternational Visitor Leadership Programと名称が変わりました)で4週間、9州の18のコミュニティ・カレッジ(日本の短期大学や職業訓練校に相当)からMITやハーバード大などの教育・研究基金システムを見学する機会を得ました。
日本では、応用を重視した大学教育が実践力となるという考えからか、教養基礎科目への関心が希薄なように感じられます。たとえば、かつては存在した教養部がすっかりなくなってしまいました。今日は、アメリカの大学教育の実情について述べ、ニューヨーク州立大学クーインズ・カレッジとモンタナ州立大学での大学教員へのインタビューから、日本の大学教育の課題について考えることにいたします。
日本の大学教育の現状についてニューヨーク州立大学クーインズ・カレッジで教務部長に、かなたにマンハッタンの摩天楼を眺めることができる教務部長室で、ギリシャのブランデーを飲みながら、「日本では実践力を高めるという名目のもと、大学学部教育で応用力をじゅうししています。この状況についてご意見をお聞かせ下さい」と尋ねてみました。
教務部長は、「間違いである。応用力教育は実践的ではない」と即答。「なぜ、そのように自信を持って断定できるのですか」と聞き返したところ、「アメリカは25年前に日本と同じような事を試み、失敗したからだ」と答えられました。
続けて、「アメリカにおける応用力教育は大学院教育であり、学部では幅広い教養教育を学ばせ、あらゆる分野に興味を抱かせ、視野を広げた方が後に応用力や実践力となる」ということを強調していたのが印象的でした。また、工学部の学生と芸術学部の学生を共に学ばせることで、触媒効果によって建築設計分野においてユニークなデザインがあふれ出た例を参照しながら、異なる領域との接触による効果も力説していました。
また、モンタナ州立大学の日本語学科には3名のスタッフがいました。そのうち、お一人は日本人の先生でしたが、他の2名はハーバード大学出身の先生でした。そこで、そのお二人にハーバード大学における教育システムにおいて最も優れている点は何かをお尋ねしたら、「日本語に関することは、古文、漢文から歴史、政治、経済にいたるまで徹底的に勉強させられた。それがあるから応用力がついた。つまり、何かやる場合に、とにかく一生懸命にやる。そこがハーバード大学の優れている点ではないか」と述べられました。
アメリカと日本では、文化的背景、歴史、社会など異なる点が多いのですが、クーインズ・カレッジとモンタナ州立大学でのインタビューは、教育について含蓄のある内容でした。
さらに機会をあらためて応用力について私の考えを述べたいと思います。
教務部長は、「間違いである。応用力教育は実践的ではない」と即答。「なぜ、そのように自信を持って断定できるのですか」と聞き返したところ、「アメリカは25年前に日本と同じような事を試み、失敗したからだ」と答えられました。
続けて、「アメリカにおける応用力教育は大学院教育であり、学部では幅広い教養教育を学ばせ、あらゆる分野に興味を抱かせ、視野を広げた方が後に応用力や実践力となる」ということを強調していたのが印象的でした。また、工学部の学生と芸術学部の学生を共に学ばせることで、触媒効果によって建築設計分野においてユニークなデザインがあふれ出た例を参照しながら、異なる領域との接触による効果も力説していました。
また、モンタナ州立大学の日本語学科には3名のスタッフがいました。そのうち、お一人は日本人の先生でしたが、他の2名はハーバード大学出身の先生でした。そこで、そのお二人にハーバード大学における教育システムにおいて最も優れている点は何かをお尋ねしたら、「日本語に関することは、古文、漢文から歴史、政治、経済にいたるまで徹底的に勉強させられた。それがあるから応用力がついた。つまり、何かやる場合に、とにかく一生懸命にやる。そこがハーバード大学の優れている点ではないか」と述べられました。
アメリカと日本では、文化的背景、歴史、社会など異なる点が多いのですが、クーインズ・カレッジとモンタナ州立大学でのインタビューは、教育について含蓄のある内容でした。
さらに機会をあらためて応用力について私の考えを述べたいと思います。
Posted by 宮平栄治 at 22:47│Comments(2)
│沖縄経済学
この記事へのコメント
宮平先生、ご無沙汰しております。
以前何度か音楽のことでやり取りをしたことがありますchuchuです。
興味深い記事でしたのでコメントさせていただきました。
「アメリカにおける応用力教育は大学院教育であり、学部では幅広い教養教育を学ばせ、あらゆる分野に興味を抱かせ、視野を広げた方が後に応用力や実践力となる」ですか!
例えば、幼いうちから「詰め込み学習」や「応用問題」を中心とした教育というのは、いかがなものでしょう?
教育者同士の意見が極端に違う場合もあるので、何が本当で何が間違いか?が最近分からなくなってきています。
余談ですが、兄がハーバード卒です(笑)
以前何度か音楽のことでやり取りをしたことがありますchuchuです。
興味深い記事でしたのでコメントさせていただきました。
「アメリカにおける応用力教育は大学院教育であり、学部では幅広い教養教育を学ばせ、あらゆる分野に興味を抱かせ、視野を広げた方が後に応用力や実践力となる」ですか!
例えば、幼いうちから「詰め込み学習」や「応用問題」を中心とした教育というのは、いかがなものでしょう?
教育者同士の意見が極端に違う場合もあるので、何が本当で何が間違いか?が最近分からなくなってきています。
余談ですが、兄がハーバード卒です(笑)
Posted by chuchu at 2005年10月12日 19:38
chuchuさんへ
コメントいただきありがとうございました。
確かに教育方法についてはさまざまなメソッドが溢れています。それだけ、人間の発展に関してまだまだ未確認の分野が多いし、また、正しい方法と考えられていた結果と予想が異なる事例もあるからです。
音楽における絶対音感や絵画などの色彩感覚のように芸術分野や、体育などのように体型と競技、あるいは技量を要する分野では、ある種の英才教育によって才能が開花する例が多々見られます。だからといって、哲学や論理学を学ぶ必要はないとは言えませんが。→この件については後日、考えを述べたいと考えています。
今回の私のコラムで述べた教育論は、応用力重視が、必ずしも実践にはつながらないということをアメリカではすでに経験していたことをお伝えする意味合いがありました。
さて、「教育者同士の意見が極端に違う場合もあるので、何が本当で何が間違いか?が最近分からなくなってきています。」というコメントはおっしゃる通りで、教えられる側の、能力、意欲、目的etcに応じて教育プログラムを適合させていかなければならないのが現状だと思います。
また、コメントを下さい。 では、また。
コメントいただきありがとうございました。
確かに教育方法についてはさまざまなメソッドが溢れています。それだけ、人間の発展に関してまだまだ未確認の分野が多いし、また、正しい方法と考えられていた結果と予想が異なる事例もあるからです。
音楽における絶対音感や絵画などの色彩感覚のように芸術分野や、体育などのように体型と競技、あるいは技量を要する分野では、ある種の英才教育によって才能が開花する例が多々見られます。だからといって、哲学や論理学を学ぶ必要はないとは言えませんが。→この件については後日、考えを述べたいと考えています。
今回の私のコラムで述べた教育論は、応用力重視が、必ずしも実践にはつながらないということをアメリカではすでに経験していたことをお伝えする意味合いがありました。
さて、「教育者同士の意見が極端に違う場合もあるので、何が本当で何が間違いか?が最近分からなくなってきています。」というコメントはおっしゃる通りで、教えられる側の、能力、意欲、目的etcに応じて教育プログラムを適合させていかなければならないのが現状だと思います。
また、コメントを下さい。 では、また。
Posted by 宮平栄治 at 2005年10月13日 09:17