2005年02月18日

第27回:教育力を測る

 以前のコラム、「日本の学力向上に必要なことは」で、日本の児童・生徒の学力が大幅に低下し、また、生徒間格差も拡大していることを述べました。その際、地域における学校現場、父母、企業、その他の機関や人々の持てる力を束ねる重要性、教育は学校現場や家庭が単独で行えるものではなく、子供を取り巻く関係者の補完関係にあるということを認識し、各機関や個人の持てる力を連携する必要性についても論じました。

 さて、教育はどのような構造になっており、また、どのように測定すれば良いのでしょうか。教育が構造化され、測定できれば、児童・生徒や関係者が何を、どうすればよいかが分かりますが、それらを示さないまま、「地域の教育力をただ向上させましょう」と言われても実行できなのが実情でしょう。

 研究者の役割の一つに目に見えない物事を見えるようにするという事があります。たとえば、考古学の世界ではシュリーマンが当時誰も存在を信じなかったギリシア神話にあるトロイア戦争でギリシア軍が使った「トロイの木馬」の伝承を検証したり、遺跡などから失われ文明を想像したり、また、物理学では電磁波やクオークという目に見えないモノを理論化し、実験装置で捉えようとします。

 教育は、知育(知識)、徳育、体育という鼎構造にあります。体育は、様々な測定具があり測定も可能なのですが。徳育にもEQ等がありますが、知育=知識はどのように測定すれば良いのでしょうか?

 マイケル・ポランニーや野中郁次郎氏は、「知識=形式的知識+経験的知識」と定義しています。

 形式的知識とは、入学試験の様に答えのある問題をいかに短時間に解くかという知識と言い換えても良いでしょう。受験勉強をしすぎると、世の中の課題には全て答えがあると錯覚する学生が多くなり、大学の新入生へは、大学で学ぶ内容には、答えがある課題、答えが複数個ある課題、課題は見つかっているが答えがないモノ、現象はあるものの原因が追及されていないモノなどを教えることが最初の仕事となります。さて、経験的知識とはダブル・ループで説明したようにある意思決定からの結果を表象モデル(=mental models)へとフィードバックし、表象モデルを修正する力と言えます。

 私も、マイケル・ポランニーや野中郁次郎氏に倣い、知識を定義してみました。私の知識の定義では、経験から以下のようになります。

 知識=形式的知識×経験的知識×夢・理想・目的×コミュニケーション能力

 マイケル・ポランニーや野中郁次郎氏の知識との違いは、知識構造が、形式的知識や経験的知識という各項目の足し算からかけ算へと変わっていることと、夢・理想・目的やコミュニケーション能力という新しい項目が加わっていることです。

 かけ算にした理由は、いずれの知識が欠けてもその人や社会を豊かにする知識に結びつきにくいということを表現したためです。また、夢・理想・目的を加えた理由は、形式的知識や経験的知識があっても夢・理想・目的がなければそれらを活かそうしないという理由からです。また、コミュニケーション能力は、我々は何事かを達成しようとするには、一人では難しく、相手を説得しなければならないという理由からです。このコミュニケーション能力は、さらに (1)どこを目指そうとしているのかという哲理、(2)そのために何をしなければいけないのかという理論、そして、(3)今、どこにいるのかをあらわすヴィジョンを含みます。

 これらの項目は測定可能なのかを検証しなければなりませんが、形式的知識、経験的知識およびコミュニケーション能力は可能ですが、夢・理想・目的の測定については残念ながら個人差が大きく測定は困難と言わざるを得ません。

 次に、知識を形式的知識、経験的知識、夢・理想・目的、コミュニケーション能力としました。では、これらの項目全部を同時に達成すべきなのでしょうか。私たちでも、「あれをしろ、これをしろ、今すぐやれ」と複数以上の課題を同時に行えと要求されると辟易してしまいます。やはり優先順位を決めた方がいいでしょう。

 まず、コンサルティングでも用いられますが、児童、生徒あるいは学生の最も優れている能力を伸展させる方法があります。また、夢・理想・目的を優先させる方法があります。しかし、これらの手法は、児童、生徒あるいは学生の各能力のバラツキ度合いや性格にも依存しますので、「これでOK牧場」というのがないのが実情です。この判断も経験を通して、精度を高めていくしかないのかもしれません。


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Posted by 宮平栄治 at 00:00│Comments(0)沖縄経済学
 
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