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Posted by TI-DA at

2005年02月25日

第28回:自由市場と規制

 先週からライブドアによるニッポン放送株式取得、フジサンケイ・グループへの提携打診、以上の動きに対するフジサンケイ・グループの対抗措置がメディアを賑わせています。

 ライブドアの株式取得の手法が、本来、大量の株式売買による株価の乱高下を防ぐために設けられた時間外取引を利用した事を問題視する人もいるようです。「わが国は自由経済であるのだから、自由市場である株式市場でライブドアが時間外取引を利用したからといって何が悪いのか」と感じられる読者も多いのではないかと推察致します。

 ここで、経営学、経済学および法学をフルマラソンの例にして考え、ライブドアとフジサンケイ・グループのニッポン放送株を巡る確執を考えてみましょう。

 フルマラソンの例では、経営学とは、ランナーの体調管理やレースにおける戦略を考え、勝利を勝ち取るための学問となります。経済学は、ランナーが走りやすい環境整備やルール作りのための学問となります。法学は、ルール作りとランナーがルールにしたがって競技を行っているかを監視するための学問といえるでしょう。

 では、「自由経済は全くの自由」、あるいは、「勝つためには何をやってもいい」といわれると、経済学を学ぶ私としては「決してそうではありません」とお答えしなければなりません。対偶的に述べれば、政府や市場による自主規制のない経済では有能な経営者の経営手腕も発揮できませんし、能力ある経営者が活躍する場も与えられません。

 例を用いて説明すると、私たちが財やサービスと貨幣を交換できるのは、政府によって財やサービスおよび貨幣の所有権が保障され、保障されることによって交換相手が明確となり、所有権を有する人には販売権、譲渡権や廃棄権などの諸権利が与えられ、加えて、所有権者の意図に反して非所有権者が利用、販売、譲渡した場合には、強制力を持つ政府によって所有者への返還と権利を侵した者への罰則という制度と規制があるからなのです。

 全くの自由では、誰が所有者で、交渉相手が誰なのかも分かりませんし、度量衡も各々が決定すると、同じ品質の米であっても升の大きさが異なると、ある地方の一升が金1グラムであっても、この金1グラムが他の地方の異なる大きさの一升と同じ価値があるのかないのかを決定するためには膨大な費用と気の遠くなる時間が必要になります(江戸時代の鎖国から開国後、小判の金含有量と国内の銀との交換比率と国外の金・銀の交換比率が異なり、大量の小判が海外へ流出したのは有名な話です)。

 結論を申せば、自由市場が成立し、経営活動が活発になるにはそのため政府による規制、あるいは市場による規制が必要であるということです。ライブドアの今回の時間外取引によるニッポン放送株の取得、そしてリーマンブラザーズという外資系証券会社に転換社債による資金調達が、証券等取引委員会や放送法の規制には抵触しないにせよ暗黙の規制を打ち破った事は事実です。

 このライブドアの行状が次世代の扉を開く事になったかどうかを判断するには、経営環境が現在よりも改善され、日本国内の企業やベンチャービジネス家が活動しやすい環境となったかどうか確認しなければなりません。   


Posted by 宮平栄治 at 00:00Comments(0)沖縄経済学

2005年02月18日

第27回:教育力を測る

 以前のコラム、「日本の学力向上に必要なことは」で、日本の児童・生徒の学力が大幅に低下し、また、生徒間格差も拡大していることを述べました。その際、地域における学校現場、父母、企業、その他の機関や人々の持てる力を束ねる重要性、教育は学校現場や家庭が単独で行えるものではなく、子供を取り巻く関係者の補完関係にあるということを認識し、各機関や個人の持てる力を連携する必要性についても論じました。

 さて、教育はどのような構造になっており、また、どのように測定すれば良いのでしょうか。教育が構造化され、測定できれば、児童・生徒や関係者が何を、どうすればよいかが分かりますが、それらを示さないまま、「地域の教育力をただ向上させましょう」と言われても実行できなのが実情でしょう。

 研究者の役割の一つに目に見えない物事を見えるようにするという事があります。たとえば、考古学の世界ではシュリーマンが当時誰も存在を信じなかったギリシア神話にあるトロイア戦争でギリシア軍が使った「トロイの木馬」の伝承を検証したり、遺跡などから失われ文明を想像したり、また、物理学では電磁波やクオークという目に見えないモノを理論化し、実験装置で捉えようとします。

 教育は、知育(知識)、徳育、体育という鼎構造にあります。体育は、様々な測定具があり測定も可能なのですが。徳育にもEQ等がありますが、知育=知識はどのように測定すれば良いのでしょうか?

 マイケル・ポランニーや野中郁次郎氏は、「知識=形式的知識+経験的知識」と定義しています。

 形式的知識とは、入学試験の様に答えのある問題をいかに短時間に解くかという知識と言い換えても良いでしょう。受験勉強をしすぎると、世の中の課題には全て答えがあると錯覚する学生が多くなり、大学の新入生へは、大学で学ぶ内容には、答えがある課題、答えが複数個ある課題、課題は見つかっているが答えがないモノ、現象はあるものの原因が追及されていないモノなどを教えることが最初の仕事となります。さて、経験的知識とはダブル・ループで説明したようにある意思決定からの結果を表象モデル(=mental models)へとフィードバックし、表象モデルを修正する力と言えます。

 私も、マイケル・ポランニーや野中郁次郎氏に倣い、知識を定義してみました。私の知識の定義では、経験から以下のようになります。

 知識=形式的知識×経験的知識×夢・理想・目的×コミュニケーション能力

 マイケル・ポランニーや野中郁次郎氏の知識との違いは、知識構造が、形式的知識や経験的知識という各項目の足し算からかけ算へと変わっていることと、夢・理想・目的やコミュニケーション能力という新しい項目が加わっていることです。

 かけ算にした理由は、いずれの知識が欠けてもその人や社会を豊かにする知識に結びつきにくいということを表現したためです。また、夢・理想・目的を加えた理由は、形式的知識や経験的知識があっても夢・理想・目的がなければそれらを活かそうしないという理由からです。また、コミュニケーション能力は、我々は何事かを達成しようとするには、一人では難しく、相手を説得しなければならないという理由からです。このコミュニケーション能力は、さらに (1)どこを目指そうとしているのかという哲理、(2)そのために何をしなければいけないのかという理論、そして、(3)今、どこにいるのかをあらわすヴィジョンを含みます。

 これらの項目は測定可能なのかを検証しなければなりませんが、形式的知識、経験的知識およびコミュニケーション能力は可能ですが、夢・理想・目的の測定については残念ながら個人差が大きく測定は困難と言わざるを得ません。

 次に、知識を形式的知識、経験的知識、夢・理想・目的、コミュニケーション能力としました。では、これらの項目全部を同時に達成すべきなのでしょうか。私たちでも、「あれをしろ、これをしろ、今すぐやれ」と複数以上の課題を同時に行えと要求されると辟易してしまいます。やはり優先順位を決めた方がいいでしょう。

 まず、コンサルティングでも用いられますが、児童、生徒あるいは学生の最も優れている能力を伸展させる方法があります。また、夢・理想・目的を優先させる方法があります。しかし、これらの手法は、児童、生徒あるいは学生の各能力のバラツキ度合いや性格にも依存しますので、「これでOK牧場」というのがないのが実情です。この判断も経験を通して、精度を高めていくしかないのかもしれません。   


Posted by 宮平栄治 at 00:00Comments(0)沖縄経済学

2005年02月11日

第26回:就職活動と沖縄ブランドの共通点は?

 2月7日(月)、8日(火)、チャイルドフッド社主催の来春、大学・短期大学・専門学校を卒業する学生向け合同企業説明会へ行ってまいりました。2日間で約2,000名を超える学生で会場は熱気に溢れ、一人でも多くの有望な人材を確保しようと各企業の担当者は声を嗄らしながら説明していました。

 この時期、来春、卒業者向けの合同企業説明会は沖縄では初めてです。その目的は沖縄の学生は公務員志望が多く、そのため、企業側も公務員試験が終わる8月頃、ようやく来年度の採用予定を発表する傾向があります。東京では、年明け前後、就職活動が始まりますから、沖縄では8ヶ月遅れとなるわけです。そのため、学生は志望する企業に残念ながら不採用となった場合や何が就職に至らなかったのかの見直しに遅れた場合、その時点で卒業が目前、あるいは、既に卒業という事態となることは第3回の沖縄経済学会のシンポジウムのコラムで説明致しました。「ならば、就職活動を早めてみよう」とチャイルドフッド社の中元社長の企画で始まったのがこの合同企業説明会です。

 私が拝聴した参加企業の代表者、就職担当者および内定した学生さんが異口同音に述べていたことは、採用したいあるいは採用に至った学生の着目点が 4つあり、第1点目は学生生活で思いっきりやり遂げたこと、悔しかったことなど自分史を描く事、第2点目は自分の長所が各企業においてどのように活かすことができるのか、あるいは貢献できるか等のように自己分析と企業分析ができている事、第3点目は以上の2点を相手の琴線に触れるように自分の言葉で語れる事、第4点目は失敗しても失敗原因を分析し、次に活かせる冷静さとタフさを養うことでした。

「800店舗と80店舗」

 この数字の意味は、800店舗が関東にある沖縄料理屋の数、80店舗が札幌にある沖縄料理屋の数だとか。昨年末、杉並区の高円寺にある沖縄料理屋の老舗を訪問した際、女将さんがおっしゃるには、東京では営業不振が続く料理店でも、“沖縄料理”という看板を出せば、たちまち、黒字経営になるほど沖縄ブームであるとか。

 しかし、ブームの後にはバースト(破裂、崩壊)があるのが世の常。その女将さんの言葉に寒気を感じましたのは東京の寒空のせいではないと思います。

 沖縄ブームが終焉しないように、私たちベンチャーや沖縄ブランドの関わる者は、就職活動を開始し始めた学生さんと同じように、沖縄の有形・無形の様々な特性を再検討し、それらをどうすれば私たちの暮らしがさらに豊かに、潤いある生活ができるように活かせるのかを分析し、そして、必要としている人々に伝え、安易に模倣できないような仕組みを築く必要があるのではないでしょうか。   


Posted by 宮平栄治 at 00:00Comments(0)沖縄経済学

2005年02月04日

第25回:情熱と愉快な発想が人々を魅了するアイディアを

発送し、フィードバックする

 先週のコラムでは、セーラ・マリ・カミングスさんをConcept Createrと位置づけ、まちづくりや企業経営において重要な役割を担う点を指摘しました。今日は、その意味内容を考えてみましょう。

 私たちは何らかの情報から意味内容を判断し行動しますが、認知科学では、私たちは情報を白紙の状態で見るのではなく、これまでの経験や知識を用いて課題を理解していると考えています。

 すなわち常に何らかの考えの枠組み(スキーマ)をもっており、外から入ってきた情報をその考えの枠組みで理解しているのです。たとえば、血液型で性格が決定されるということを信じている人がある人の行動から性格を判断する際、「A型は~だ」という枠組みでその人の行動を観察し、理解し、結論を下しています。私達のこの「○○をするとこうなる」という思考パターンを「表象モデル(=mental models)」と呼びます。

 余談ですが、血液型には分かっているだけでも100種類以上ありますので、ABO型のみで性格を判断することはできません。また、血液型で性格を判断するという起源は旧日本軍が強い軍隊組織を作る際、血液型別の部隊編成を試験的に行ったというのがはじまりだとか。しかし、「B型って気分屋さんネ」と言われ続けると、自己暗示によって言われ続けられた性格が以前よりも強くなる傾向も否定はできませんが・・・。

 セーラ・マリ・カミングスさんは、まさに表象モデルづくりの達人といえる存在なのです。また、セーラさんの魅力は、表象モデル形成において、常に明るく、前向きな表象モデルを創造するので、人々を魅了しますし、また、将来の進むべき方向とほんの少し努力すれば達成可能な明るい未来が築けることを洒落っ気たっぷり言葉、これをヴィジョンといいますが、ヴィジョンによって進むべき未来と努力の方向性を照らし、指し示すので人々は不確実な未来へも一歩足を踏み出すことができるのです。

 さて、表象モデルができれば上手くいくとは限りません。ある情報が与えられ、表象モデルによって状況を判断し、ある結論を下し、例えば、進む、退く、待機する、無視する、黙殺する等を行い、結果が出てきます。その結果にどのように向き合うかが重要です。

 もし、結果に対して何らの評価を下さいなければ、この人の学習は、「シングルループ的学習」と呼ばれます。つまり、結果の根本である表象モデルを金科玉条のごとく扱うようなもので結果を受けて何らかの修正がなされないため何度でも同じような失敗を繰り返す組織となってします。

 「シングルループ的学習」に対して結果を受け、表象モデルを修正する学習方法を「ダブルループ的学習」と呼びます。表象モデルの形成ができましたら、次は、「ダブルループ的学習」を心がけてください。

 一昨年の夏に、マサチューセッツ州にあるマサチューセッツ工科大学の経営系の大学院を訪問した際、トヨタやソニーなど世界中の一流企業から将来のコア人材が学んでいましたが、その人達は「マルチ・ループ的学習」を研究していました。   


Posted by 宮平栄治 at 00:00Comments(0)沖縄経済学