2005年10月30日

第78回「起業家にやる気を起こさせる税と社会システム」

あるやり手の社長さんと会食会の機会を得ました。話は、教育問題、最近のエイサー・ブームと沖縄の観光開発、不動産取引から社長業とは何かまで多岐に及びました。

会食会も終盤に迫った頃、その社長さんが「法人税と法人事業税がもう少し低かったら、もっと事業を拡大し、儲かり、納税や寄付もできるのだが」と嘆いていました。

日本の企業への課税は、国が徴収する法人税、都道府県が徴収する法人事業税がありますが、政府税制調査会では他の先進国に比べて法人税と法人事業税を合わせた実効税率は、ほぼ同じで、また、日本と諸外国を比べた場合、金額という測定可能なもの以外にも、たとえば、社宅や保養施設など従業員の働く意欲を喚起するための施設にかかる費用である法定外福利厚生費などがあり、一概に比較はできないとしています。

総務省は、資本金別の法人税負担率を推計し、アメリカとの比較を行っています。それによりますと、日本の場合、いずれの資本金階級においても25%前後から33%であるのに対して、アメリカは、100万ドル~500万ドルまでは19%程度、そらからなだらかに上昇し、500万ドル以上からは35%と一定しおり、資本金規模による税負担の格差を指摘しています。

先ほどの社長さんの嘆きは、「成長したいのだけど、成長してもしなくても税率が同じであるので成長する動機付けにならない」と言い換えてもいいでしょう。

日本の法人税を考える上で、もう一つの問題は、政府税調も、総務省も指摘しているように、所得のない赤字法人(=欠損法人)が多いということです。たとえば、バブル経済の1980年代後半でも欠損法人は約5割、とりわけ資本金1億円以上の大企業でも3割の法人が法人負担をしていませんでした。

その結果、約250万社ある法人のうち0.8%に過ぎない資本金1億円以上の約1万9千の法人が法人税額の約7割り、さらに741社しかない資本金100億円以上の法人が法人税の約3割を負担するという偏りが見られます。

庶民の感覚から見ると、「トウ・ゴウ・サン・ピン、あるいは、九・六・四といわれるようにサラリーマンは天引きされて、水も漏らさず所得税を徴税されるのに、企業は・・・」という印象がありますが、まだら模様のようです。

そこで、これまでの儲けに対して課税をするのではなく、事業活動価値、給与総額、資本金あるいは売上総利益という新たな基準(「外形基準」といいます)へと課税の根拠を設けようとしています。考えてみれば、庶民は、たとえば、生活費が赤字になったからといって所得がある以上、税金が免除されることはないわけですから欠損企業だからといって税金を納めていなかったというのが不思議なのですが。

さて、アメリカではレーガン大統領の頃、税制改革を行いましたが、その時は、法人ばかりでなく、所得税率を引き下げ、また、多段階式から税段階少なくし、ある所得段階に達すると裕福感を感じられるような税体系にしました。つまり「もっと裕福になりたければ、もっと働き、所得を得なさい」という方式をとったのです。

日本では金持ち優遇策などとマスコミ受けはしませんでしたが、ブルーマンデーといって、月曜日に生産された自動車は、休日あけで労働者のやる気がないため、欠陥や故障がおおいという当時のアメリカが、この税制改革で勤勉さを取り戻し、その後の繁栄の基礎を築いたといって良いでしょう。

ただし、税調ではありませんが、この方式が日本でも機能するという保証はありません。というのも、所得税率を引き下げは、経済的強者を生みますが、競争に敗れる者、経済的弱者ももたらします。

日本では、不当たりを出すと財産の一切合切を差し押さえますが、アメリカは、電話と自動車は差し押さえないというような敗者復活戦を認める社会風土や、冒頭取り上げました社長さんのように、利益の社会還元を行うという社会のあり方も必要なのです。


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Posted by 宮平栄治 at 20:08│Comments(0)沖縄経済学
 
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