2005年11月07日

第82回 「特許侵害か、アイディアか」

プリンターインクカートリッジの特許を持つキャノンと、使用済みカートリッジにインクを再充填して販売するアシストの第二審が、11月4日(金曜日)から、知的財産高等裁判所で弁論が開始され、その動向が注目されています。

そもそもは、プリンターのインクカートリッジに特許権を持つキャノンが、使用済みカートリッジを回収し、工場でインクタンクに穴を空け、洗浄し、乾燥させインクを再充填して販売しているアシストを訴えたのが事の発端です。第一審は2004年12月に、キャノンが敗訴しましたが、判決を不服として二審の知的財産高裁が、重要性と社会性から大合議での審理を決定しました。

キャノンとアシストの主張違いは、①使用済みカートリッジの評価、②使用済みカートリッジにインクを再充填する行為は特許侵害にあたらない修理か、特許侵害にあたる加工か、③技術開発へのインセンティブかリサイクルによる資源保護か、とまとめることができます。

使用済みカートリッジの評価については、キャノン側は、再充填品はプリンター本体を痛めることもあるので、カートリッジが廃棄物であたると主張しているのに対して、アシスト側は、インクを再充填すれば使用できる製品であって、廃棄物ではないと反論しています。

修理なのか加工なのかについては、リサイクル品にインクを再充填する行為は新たな加工を施し、特許の侵害にあたるというキャノンに対して、アシスト側は、電池の交換のように修理できる製品であって、したがって、特許を侵害する加工ではないと主張しています。

インセンティブかリサイクルについて、キャノンは、複写機やコピー機などのメーカーでは、メンテナンスやコピー紙・インクカートリッジなどの消耗品も重要な収益源となっており、再生品が認められると、特許自体の魅力が薄れ、製品開発意欲が萎え、その結果、技術革新へのインセンティブが弱まり、社会全体の不利益になると主張し、保護を訴えていますが、アシスト側は、過大な特許権の保護はメーカーの利益を補償し、商品価格を高値に維持する一方で、リサイクル可能な商品が回収されず、ゴミ増加にもつながると述べています。

さて、私の考えは、たとえば、同じカートリッジでも万年筆のカートリッジを回収しようと思う企業はいません。それは回収、インク補充、そして再販売する際の採算ベースとならない程、万年筆のカートリッジが安いわけです。逆に言えば、コピー機のインクカートリッジが、高いということになります。また、インク補充可能なほど複雑ではないということもいえます。

では、最初からアシストのようなインクカートリッジ再生品が表れるという想定で、製品開発をおこなうとどのような結果になるかを考えてみましょう。メーカー側が開発コストを回収するためには、メンテナンスやコピー紙・インクカートリッジなどの消耗品においては回収できなくなるわけですから、コピー機の販売価格で回収するなどの手法が考えられます。

コピー機の販売価格で回収するとなると、利用者の手の届く範囲内で落ち着けばよいのですが、そうでないならば、せっかくの便利な機器も私たちが目にすることも、利用されることもなく消え去ってしまう可能性があります。

では、どうすればよいかを考えてみますと、CD発売とレンタル店に並ぶまでの時間差に注目して、消費者が手に届く範囲の価格帯が設定できるよう、また、開発メーカーの開発費が回収できる期間まで、インクカートリッジなどの消耗品の特許を認め、その期間を過ぎたと判断される段階でインクカートリッジの再生品の販売を認めるというのが着陸点かと考えられます。

ベンチャービジネスにとっても、この司法判断は重要な意味を持ちます。知的財産高裁がどのような司法判断となるかを見守りましょう。


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Posted by 宮平栄治 at 16:43│Comments(1)沖縄経済学
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この記事へのコメント
はじめまして、おじゃまします
最近てぃーだ仲間入りをした
アメリカ在住の書のアーチストです

このタイトルは私にも身近なので面白そうだなあと
思ってクリックしてみました

まだまだ結果は出ていないのですね?

アメリカ販売の際の特許もさることながら
私は仕事で結構毎日たくさんプリントをしているので
消費者にとって
再生利用のカートリッジは安かったらこんなうれしいことはないですね

なぜなら
余りの価格の高さに嫌気が差し
自分でする注射器インクも試したのですが
手間がかかりすぎるのと
何回も使っていくうちにきれいにプリントされないので

結局元の高いものに戻ってしまいました

今はからになったカートリッジをお店にもっていくと
コピー用紙を1冊無料でもらえるので
まあそれでよしとしてます

又ぜひ結果をコメントしてください




又ぜひ取り上げてほしいです
Posted by いまここに at 2006年01月20日 03:04
 
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