2006年01月15日

第104回 「特許取り下げで審査料全額返還の効果」

企業間競争で他社よりも優位に展開する手段として、イノベーション、イノベーションによって得られる社会的利益のうちイノベーション企業がどの程度得られるかを意味する占有可能性、ライバル企業が同じような種類の商品を開発するまで独占できる期間を意味するリードタイム、技術の隠匿、生産設備、販売網などの独占的支配を意味する補完的資産支配そして特許取得があります。

さて、1月13日(金)の日経新聞の報道によると、経済産業省・特許庁は、企業などがいったん申請した特許の審査請求を取り下げれば、審査料を全額返還する仕組みへと変えるそうです。ちなみに、現在は審査が始まる前に取り下げても審査料を半分しか戻らないそうです。

この措置の目的は、2005年度の請求件数は約40万件の見通しで、特許庁が審査できる件数の1.7倍にものぼり、その間、審査が追いつかず順番待ち申請が80万件もあるそうです。需要にタイミングよく商品を提供する時代に、請求から審査までの待ち時間はなんと27カ月に達するそうです。

請求から審査まで約2年3ヵ月も要するわけですから、その間、特許に基本となっている技術やアイディアの陳腐化や、代替商品の出現などがあるかもしれません。それ以外の理由を含め、この長期化によって、日本では申請しても特許として認められない請求が全体の半分程度あるそうです。審査を円滑にすすめるため、無駄な請求から撤回を促すための措置だそうです。

私は、この措置によって、逆に、申請が増え、ますます審査が長期化するのではないかと考えています。なぜなら、これまでは申請した特許の審査請求を取り下げると、申請料は半分が戻り、半分は戻りませんでした。この戻らなかった申請料の半分の事を埋没費用といいます。

埋没費用が企業活動に及ぼす影響から説明してみましょう。たとえば、沖縄に進出したいと考えている企業が、実際に進出したのですが、やむなく沖縄から撤退しなければいけなくなった事態を想定しましょう。

撤退の際、購入した土地などは誰かに売れば土地購入代金は、地価の状況次第では全額戻ってくる可能性がありますが、賃金、広告費、光熱費などは撤退しても企業には戻って来ません。この戻ってこない費用が多額になればなるほど、沖縄への進出を考える企業は慎重に行動するため進出企業は減っていきます。

先ほどの特許料についてこの考えを援用してみましょう。額にも依りますが、申請後、申請を撤回しても申請料の半分が埋没化し、しかも、27ヵ月の月日を要するという情報は、申請者に対して、費用や許可までの事を慎重に考えさせた上での申請だったと予想されます。

今回の措置によって、審査料が全額返還されるわけですから、埋没費用化していた申請料の半分が埋没費用でなくなるわけですから、「ダメもとで良いから申請してみるか」と考える人や企業が現れる可能性が示唆されます。もっとも、弁理士さんがダメもと技術を認めるとは思いませんが。

前向きに考えれば、埋没費用によって特許申請ができなかった優れた技術やアイディアが、次々と申請される可能性もあるということになります。もしこの仮定と結論が正しいならば、特許庁の人員を増やし、特許申請期間を短期間化したほう良いということになりますが、行財政改革のためままならないようです。

さて、本年、1月1日(日)の日本経済新聞にルービン元米財務長官のインタビュー記事、「マネー、リスクを軽視―BRICs台頭―」が掲載されていましたが、その中で、アメリカは、ブラジル、ロシア、インドそして中国という人口2億人以上の新興工業国、BRICsが多くの高学歴者を輩出し、これらの人材との競争になるという部分がありました。国際競争においては、日本もアメリカと同様の競争、特に、技術競争となります。特許制度を含め知財の創出、保護、応用等を含めた施策が必要になることをこのインタビュー記事は示唆しています。

今回は、後藤晃著『イノベーションと日本経済』(岩波新書 2000年8月)を参照致しました。


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Posted by 宮平栄治 at 14:46│Comments(0)沖縄経済学
 
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